歯ごたへの良き地蛸にて木の芽和 金田 青水
『この一句』
木の芽和は山椒の若芽をすり潰して山椒味噌を作り、季節の素材と和えたもの。春到来を告げる日本の伝統料理のひとつで、もちろん春の季語である。水牛歳時記では「筍と烏賊を和えたものが最高である」として、味噌と調味料の割合や筍の湯がき方など詳しく解説している。
番町喜楽会の三月例会に、木の芽和が兼題の一つとして出されると、選句表には調理の経験を詠んだ句はもとより、盛り付ける器や一緒に飲む酒の種類などを詠みこんだ句が賑やかに並んだ。和える素材も様々で、甲烏賊や赤貝がある中で、地蛸のこの句が一番おいしそうに思えたので迷わず選んだ。
木の芽和は何といっても鼻に抜ける山椒の若々しい香りと、味噌と和えた素材のハーモニーが味わいどころ。シャキシャキした新筍も捨てがたいが、歯ごたえのある地蛸は噛めば噛むほど山椒味噌と渾然一体となり、口中に春があふれそうだ。「地蛸にて」の「にて」が工夫した表現で、音数を揃えるだけでなく、地蛸と木の芽和を柔らかく結ぶ隠し味のような働きをしている。
この木の芽和をほかの句と一緒に味わうなら、赤べこ色の会津塗(春陽子)の器に盛り、志野の大ぶりのぐい呑み(水牛)を添え、地酒四種(双歩)の飲み比べといきたいものである。
(迷 24.03.28.)
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