品書は女将の細字木の芽和 中村 迷哲
『この一句』
句会で「木の芽和」を「このめあえ」と読んだら、「木の芽和」は「きのめあえ」、「木の芽時」は「このめどき」と読まなくてはいけないと指摘を受けた。帰って歳時記で調べると、その通りだった。念のために古い広辞苑を開いてみると、「このめあえ」も項目としては立っているが、「きのめあえ」を見よとなっており、語釈は「きのめあえ」にしかなかった。世間では「このめあえ」という読み方も流布しているが、正しいのは「きのめあえ」だよということか。句会は勉強になる。
木の芽和えは、すりつぶした山椒に味噌や調味料を加え、筍や烏賊、蛸などと和える、春らしい食べ物である。盛りつけた上に、木の芽を一枚あしらうのだが、昔から手のひらで叩くと良い香りがすると教えられてきた。当然ながら、お酒なしではすまされない。
この句に詠まれた光景は、居酒屋ではないだろう。割烹か、少なくとも小料理と看板に出ている店だろう。品書きは厚めの和紙に書かれていて、季節ごとに書き換えられるので、そんなに古びてはいない。「女将の細字」という措辞が、店の雰囲気やたたずまい、女将の容姿すら想像させる。加えて、「品書き」ではなく「品書」、「木の芽和え」ではなく「木の芽和」、「細い字」ではなく「細字」、こういった表記の細部が、きりっとした印象を与え、店も料理も引き立てているようだ。こんな店の木の芽和えなら、是非、行って食べてみたいものである。
(可 24.03.24.)
この記事へのコメント