昼席の追い出し太鼓暮遅し 徳永 木葉
『季のことば』
春になって昼間の時間が永くなることを「日永(ひなが)」という。同じような季語に「遅日(ちじつ)」があるが、「もっぱら日没時間の遅くなったことに比重を置いた言い方」(角川俳句大歳時記)とされる。遅き日、暮遅し、暮れかぬ、なども同類の季語で、日没が遅くなったことに春を感じるのである。
掲句は寄席の昼席の終了を知らせる太鼓と暮遅しを取合せている。昼席は正午前後に始まり、午後四時過ぎに終わるところが大半である。作者が昼席で存分に笑い、太鼓の響きに送られて外に出てみるとまだ十分に明るい。冬の間は五時近くには暗くなっていたものが、日が伸びて夕暮れにはまだ早い。まさに「暮遅し」を実感したのではないか。
寄席太鼓は客の出入りに合わせて鳴らされる。叩くのは前座の仕事の一つである。はね太鼓とも呼ばれる追い出し太鼓は「デテケ、デテケ(出てけ、出てけ)」と聞こえると言われる。「デテケ」の太鼓を聞きながら、薄暗い客席から外に出たら、まだ明るくてびっくり。寒くて暗い冬の日を過ごしてきた身には、なおさら明るく暖かく感じられたであろう。
作者は健康面から夜の外出を控えているという。昼間出かけるのは問題がないので、寄席も昼席を楽しむようになったのではなかろうか。外に出て暮れかねる街を見て、近くのビアホールなんぞでグラスを傾け、遅日を楽しんだのではないか、と想像を広げている。
(迷 24.03.21.)
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