佐保姫のあっかんべーや今日の風 嵐田双歩
『この一句』
酔吟会は兼題の他に席題が出される句会である。この日の出題者は大澤水牛氏。どんな席題が出されるかと思ったらなんと「あかんべ」。一同頭を悩ましたが、結果としてはなかなかの秀作が出揃った。
佐保姫は平城京の東、佐保山に在す春の女神。平城京の西、龍田山に在す秋の女神である龍田姫と対置される。ともに春と秋にふさわしい美しい季語である。この日は晴天ながらも、とても風の強い日であった。この句の面白さは、なんといっても、おしとやかな姫君に、強風に向かって「あっかんべー」という茶目っ気のある行為をさせていることだろう。季語である佐保姫にあかんべをさせ、「今日の風」とその日の強風を織り込み、しかも句会の始まるまでの短時間に即興で仕上げたこの句は、挨拶句のお手本のようだと感心した。
この句は、最初は「佐保姫があかんべと言ふ今日の風」であった。投句してから、「佐保姫のあっかんべーや今日の風」の方が良いと気がついたと、作者みずから言われた。この句を採ったものも採らなかったものも、ほとんどが「あっかんべーや」の方が良いと、差し替えに賛同した。俳句の勘どころを知っている作者だからこそ出来る改作だろう。この句は元の形で上々の人気を集めたのだが、最初からこの句なら最高点を争ったに違いない。
(可 24.03.14.)
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