柚子風呂に潜りてみたり老い独り 河村 有弘
『この一句』
掲句を見て「おい、おい、風呂に潜るなんて、止めてよ」と、忠告したくなった。作者は現在、横浜港の近くに独り住まい。そして作者と私は新聞社に同期入社以来、所属部局こそ違え・・・、いや、そんなことより現在は、柔道マンの集まる「三四郎句会」の句仲間であり、句会終了後は、仲間ともども酒場にドカドカと集まり、盃を交わす間柄ではないか。
奥様を亡くし、現在は独り住まい。何をするのも自由の身ではあるが、「風呂に潜りてみたり」とは! 既に八十歳の坂を上り、下りにさし掛かる頃。「風呂に入るなら滑らないように」と声を掛けたくなるのだが、さらに「湯に潜り」「目を開いて」とのことだから驚いた。探究心など老いては無用、とは言わないが、他に何かやることがありそうに思えるのだ。
さらに加えて、句の下五の「老い独り」の「老い」も「独り」も気にならざるを得ない。中七の「潜りてみたり」は未だ老いずにいるからで、柚子湯に潜るのは、目を開いて湯の中を窺おうとする、度胸や好奇心を示しているのだが――。そのような冒険は遥か昔の「駆け出し記者の頃にやっておくことですよ」と私は忠告したいのである。
(恂 24.02.28.)
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