愚痴りつつ土筆の袴外しけり 谷川 水馬
『季のことば』
土筆は春先に野原や土手にニョッキリ顔を出す野草。水牛歳時記によれば、トクサ科のスギナの胞子茎で、形が筆に似ていることから土筆と書く。古くから食され、茎を輪状に取り巻く袴と呼ばれる部分を取り去って、茹でて酢の物などで食べる。同歳時記には天ぷらや酢味噌和え、佃煮など調理法が詳しく紹介されている。
土筆の調理はこの袴取りの作業が大変である。細くて折れやすい茎の小さな袴を、根気よく取り去らなくてはならない。そのうちに茎の汁で指先が黒ずんでくる。手間がかかる割には食べられる量は少ない。少し苦みがあるため、苦労して調理しても子供たちはあまり喜ばない。
掲句はそんな土筆にまつわる思いを「愚痴りつつ」という上五に込めている。子供が無邪気に摘んできた土筆を、「手間がかかって大変なんだから」などと言いつつ、袴を外す母親の姿を想像した。歳時記には「土筆の袴取りつつ話すほどのこと」(大橋敦子)という例句もある。てっきり女性の句と思ったら、作者が幼い頃、姉さんに叱責されながら袴を外した思い出を詠んだという。言われてみれば、評者も子供の頃に土筆の袴取りを手伝わされた記憶がある。「愚痴りつつ」という措辞が改めて腑に落ちた。
(迷 24.02.18.)
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