ベランダのセリを加えて七草粥 澤井 二堂
『季のことば』
「七草粥」は正月七日に、七種の若菜を入れた粥を食べる風習のこと。邪気を払い万病を除くといわれる。七草は、芹(せり)、薺(なずな)、御形・五行(ごぎょう=母子草)、繁縷(はこべら)、仏の座(ほとけのざ)、菘(すずな=蕪)、蘿蔔(すずしろ=大根)が一般的だ。前日の夜、まな板に乗せた七草を「七草なずな唐土の鳥が日本の土地に渡らぬ先に、七草なずな……」と唱えながら包丁で叩き、七日の朝に備えるそうだ。この辺の事情は、今も実践しているという水牛さんの「水牛歳時記」に詳しい。
掲句の作者は「人日」の七日、ベランダで栽培しているセリを抜いてきて粥に投じたという。まるで日記の一行のような叙述だ。それだけに何のひねりも加えてなく、肩の力がすっと抜けて、実に素直な好感度の高い句に仕上がった。長いこと五七五に勤しんでいると、時にこんな無欲の句が生まれることがある。ウケを狙ったり、得点を期待したりといった邪心が入ると、自ずから露見して読者にそっぽを向かれる。こういう素直な句に出会うと、自戒の念に駆られてしまう。
ちなみに「ベランダ」は「露台」という夏の季語の傍題で、テラスやバルコニーも同じ。また「セリ」は春の季語だが、季重なりは全く気にならない。強いて言えば、一句にカタカナが二つ以上入るのは良くないとされ、「芹」と漢字を使いたかった。
(双 24.01.24.)
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