福寿草置けば日のさす出窓かな  廣田 可升

福寿草置けば日のさす出窓かな  廣田 可升

『季のことば』
 
 「福寿草」は、花の少ない寒い時季に黄金色の可憐な花を地面近くに咲かせる。「元日草(がんじつそう)」や「朔日草(ついたちそう)」の別名もあり、福と寿という目出度い字面も相まって新年を言祝ぐ季語だ。
 江戸時代から正月の飾り物として赤い実などと一緒に寄せ植えした鉢を売っていたという。昔は旧暦だったので、正月のころになんとか福寿草の開花が間に合ったが、新暦の現在では、正月にはまだ咲いてないので、花屋に並んでいる福寿草はハウス栽培ものだ。
 54歳で亡くなった日野草城は、50歳の正月に「福寿草平均寿命延びにけり」と詠んだ。大手保険会社の人事部長などを歴任したものの、肺結核を患い退職。収入も途絶え、緑内障で右眼を失明するなど不遇な時期だ。厚生労働省の平均寿命の推移によると、その頃(1955年)の男の平均寿命は63歳。当時、病床にあった草城は平均寿命が大いに気になったことだろう。ちなみに、2022年の男の平均寿命は81歳だ。
 閑話休題。掲句は、正月にふさわしい明るい一句。福寿草の鉢物を日の差す出窓に置いたということを、まるで福寿草を置いたから日が差してきたかのように詠んでいる。因果関係を逆に置き換えたことで、ちょっとした可笑しみが生じ、俳諧味ある佳句となった。
(双 24.01.05.)

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