駆ける子のあとさき銀杏落葉かな 水口 弥生
『この一句』
冬を感じさせる景物の最たるものは「落葉」であろう。木の種類や、暖地、高冷地など地域によっての違いはあるが、十一月から十二月にかけて木々の葉は紅葉黄葉し、あるいは茶色くなって散り出す。
それを見て人々は年の瀬の迫り来るのを感じ、焦燥感を抱く。高齢者ともなれば我が身の弱りを重ね合わせてそぞろ心細さにとらわれる。対照的に、元気横溢の子供たちにとっては木の葉の舞落ちるのが面白い。日を浴びながら美しく光りながら降って来るのが玄妙不可思議に映るのか、舞散る落葉に両腕を広げて走り出したりする。
落葉にもいろいろあるが、銀杏落葉ほど印象的なものは無かろう。神宮外苑でもいい、上野公園でもいい。あるいは近所の公園でもいい。大きな銀杏の木のある広場の十二月は実に見ものだ。これでもかというほどの勢いで降って来る。たちまち地面を覆い尽くし、遠目には黄色い絨毯を敷き詰めたようになる。
これがまた子供たちには遊びのタネになる。銀杏落葉はとても滑りやすい。アスファルトの路面に降り積もったところに車が通ると、スリップ事故を起こすこともある。車の来ない公園では積もった銀杏落葉目掛けて男の子が「滑りっこ」に興じる。しかし、時たま雌の銀杏の木があって、熟したギンナンをぼたぼた落としていたりすると大変だ。ズボンのお尻になんとも言えない臭気を発散する果汁がべっとりついて、皆にからかわれ、泣きべそをかいたりしている。
(水 23.12.14.)
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