モニターに映る頸椎そぞろ寒    廣田 可升

モニターに映る頸椎そぞろ寒    廣田 可升

『この一句』

 番町喜楽会11月例会の兼題「そぞろ寒」に、病院内の様子を詠んだものが3句並んだ。掲句はそのひとつで、診察室のモニターに、MRIで撮ったであろう頸椎の画像が映し出されている。医師が画像を指しながら痛みの原因を説明している光景が想像される。自分の体内、それも病巣がくっきりと示され、何やら隠し事を暴かれたような気分になっているかもしれない。
添えられた季語の「そぞろ寒」は仲秋から晩秋にかけて「何とはなしに感じる寒さ」(水牛歳時記)をいう。秋の終わり頃にふと感じる寒さは、冬の到来を予感させ、ちょっと心淋しい気分をもたらす。不安を抱えながら診断を聞く患者の心理に絶妙にマッチしている。
 同じような場面を詠んだ句に「見せられし肺の画像やそぞろ寒」(玉田春陽子)があり、こちらを選んだ人もいた。どちらの句を採るかそれぞれ迷ったようだ。モニター派の意見は「措辞が客観的ですっきりしている」、「肺より骨がそぞろ寒に合う気がする」というもの。これに対し肺の画像派は「見せられしという措辞によって、医師が病状を説明している景がすぐ浮かぶ」と、臨場感に着目している。
 作者によれば、長年の仕事の影響で第七頸椎が圧迫され、腕や肩に痛みが出ているとの診断だったという。団塊の世代が後期高齢者となり、医療費は膨張の一途である。選句表には「そぞろ寒診察待ちの顔と顔」(大澤水牛)の句もあった。急速な高齢化の進展で、医療も介護も年金も崩壊寸前のこの国の未来に、そぞろ寒どころか、肝が冷える思いをしている国民は多いのではなかろうか。
(迷 23.12.01.)

この記事へのコメント

  • 酒呑洞

    2023年12月01日 17:58
  • 酒呑洞

    私は「見せられし肺の画像やそぞろ寒」に一票投じた方なのですが、このコメントを読みながら、改めて両句をためつすがめつしました。甲乙付け難く、二つとも素晴らしい句ですが、「モニター」というのが現代医療の様相を如実に示しており、今にして「これだったかなあ」などと思って居ります。
    2023年12月01日 18:05