地に落ちて星屑となる百日紅 徳永 木葉
『季のことば』
盛夏に咲いた百日紅の小さな花が地面に散り敷いている様を、詩情豊かに詠んで日経俳句会8月例会で最高点を得た句である。
百日紅はミソハギ科の落葉高木。角川俳句大歳時記によれば、インド近辺が原産で、中国を経て遅くとも江戸初期には渡来した。仲夏の季語だが、夏から9月末頃まで赤やピンク、白の小さな六弁の花を次々に咲かせる。百日紅と書くのは花期の長さにちなむという。
百日紅は暑さに強く花期が長いので、街路樹に採用する自治体も多い。色鮮やかな花を付ける木の根元には、花期を終えた花弁があられを撒き散らしたように広がる。作者はそれを星屑に見立てた。「地に落ちた星屑というスケールの大きい表現と、百日紅の花弁の可憐さのコントラストが素敵です」(斉藤早苗)との評に代表されるように、その対比の妙が高得点の要因であろう。また「地に落ちて星屑となる」と先に黒く硬い岩をイメージさせておいて、最後に百日紅の赤(紅)を配する語順も、効果を上げている。
作者が住む佐倉市には百日紅の名木のある寺や屋敷が散在し、さるすべり通りやサルスベリ広場もある。持病を得たため遠出を控えている作者は、自宅近くを散策することが増えたのではなかろうか。頭上に咲く花ではなく、地に落ちた花に目をとめ、そこから夜空の星に発想を飛ばした作者の精神の若々しさに拍手を送りたい。
(迷 23.09.09.)
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