セシウムを測る山野や桃実る   中村 迷哲

セシウムを測る山野や桃実る   中村 迷哲

『この一句』

 「桃の実」の兼題に、桃の「くぼみ」や「産毛」に着目したり、赤ちゃんのお尻に模したりと、桃の形状を詠んだ句が並ぶ中「セシウム」の上五は異彩を放った。
 作者によると、8月初め、福島に旅行した折、桃を食べた。聞けば、産地では畑の土壌はもちろん、出荷する桃もセシウム検査をしているという。もちろん基準はずっと下回っているのだが、原発事故から12年経ってなお、風評被害克服の努力が続いていることを改めて知り、それを詠んだという。
 放射性セシウムは半減期が長く、長期汚染が懸念される。福島県のホームページによると、県は水や空気、米や野菜、水産物から加工食品に至るまで徹底的に放射線のモニタリングを行っているそうだ。ホームページに載っている「緊急時モニタリング検査結果について(福島県・野菜・果実)」の最新結果を見ると、採取した地名とモモやトマトといった野菜、果物の種類の一覧表があり、セシウム134、セシウム137の欄には、いずれも「検出せず」の文字がずらり並んでいる。
 東京電力福島第一原発の処理水の海洋放出が取り沙汰されている昨今、「桃の実」に託してフクシマの現状を伝えるこの一句は、作者の新聞記者魂の発露とみた。
(双 23.09.05.)

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