語り部のまた一人逝き原爆忌   岩田 三代

語り部のまた一人逝き原爆忌   岩田 三代

『季のことば』

 八月は「原爆忌」など戦争にまつわる季語が多い。水牛さんの季語解説「八月」によると、『立秋を挟んで、「広島忌」「長崎忌」(合わせて「原爆忌」と云い、晩夏の部に入れられているが〝八月の季語〟という括りでいいだろう)があり、十五日は「終戦日」(敗戦日)と、日本の国をひっくり返す出来事があった』とした上で、『「原爆忌」と「終戦日」という季語を大事にして、毎年八月にはぜひ詠みたい』と説く。
 この日の句会では、掲句のほかに「落としたる葡萄ばらばら原爆忌(水牛)」、「原爆忌白磁茶碗に白湯満たし(双歩)」、「武器輸出なんかしないで敗戦日(光迷)」、「語り継ぐ被爆二世の焦る夏(冷峰)」などの作品が並んだ。どの句も味わい深く、読者の共感を得た。
 作者はかつて、広島赤十字・原爆病院の被爆遺構を取材したことがある。その時、受けた感慨を「悲しみは赤錆となり原爆忌」と詠んだ(当ブログ既掲載)。爾来、八月には意識して原爆忌を詠んでいるようだ。
 掲句の「語り部」とは、自らの被爆体験を語る証言者のことだ。戦後78年が経ち、被爆者の平均年齢は80歳を超えたという。語り部もしかり。高齢になり、亡くなられる方もいて、年々自分の経験を語れる人が少なくなっている。淡々と詠んでいる分、心に響く一句だ。
(双 23.08.28.)

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