原発に未練の紙面原爆忌     須藤 光迷

原発に未練の紙面原爆忌     須藤 光迷

『この一句』

 唯一の被爆国でありながら、脱原発に踏み切れない日本の現状を鋭く衝いた時事句である。
広島と長崎に投下された原爆の犠牲者は、直後の推計で20万人、その後の原爆症死者を含めると50万人を超えるとされる。投下から78年経つが、惨禍の記憶は引き継がれ、8月の列島は鎮魂の祈りに包まれる。その一方で、核廃絶の願いは世界に届かず、保有国は10カ国前後に拡大。恫喝のため核使用に言及する指導者さえいる。
 戦後、原子力の平和利用を唱えて導入された原発は、福島の事故により制御不能な存在であることを改めて露呈した。使用済み核燃料の再処理体制も破綻し、経済的な優位性も崩れている。欧州ではドイツをはじめ脱原発へ動く国が増えている。
 こうした中、作者は日本の在り様に深い憂慮を抱いているように読み取れる。「原発に未練の紙面」とは、電力不足解消のためには原発の再稼働が欠かせないとか、脱炭素社会の実現にはCO2を出さない原発を活用すべきだ、といった新聞論調を指しているのであろう。それは連日の猛暑と大幅に高くなった電気料金にため息をつく、多くの国民の迷いでもある。
 作者は未練の紙面と原爆忌を並べることで、被爆と福島事故という過酷な体験を持つ日本だからこそ、未練を断ち切って脱原発へ踏み出すべきだと、覚悟を迫っているのではなかろうか。
(迷 23.08.07.)

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