月見草三線欲しき宵の口 溝口 戸無広
『季のことば』
月見草はアメリカ原産で江戸末期に渡来した夜開性の帰化植物。角川俳句大歳時記によれば、白色の清楚な花をつける本来の月見草は少なくなり、今では7月から8月ごろ、大形で黄色の花をつける同種の待宵草や大待宵草が一般的に月見草と呼ばれているという。日当たりのよい草原や荒れ地に生育し、海岸でもよく見られる。
掲句の月見草と三線(さんしん)の取合せは、すぐには意味が取れない。カギは沖縄ではなかろうか。三線は沖縄地方で使われる伝統楽器である。三味線に似ているが掉が短く、弦が太い。沖縄三味線とも呼ばれ、地元では歌に踊りに欠かせない。沖縄には陽が落ちてから若い男女が浜辺に集まり、歌い踊る風習があったという。今でも夕暮れの浜に住民が集い、酒を飲んで踊る場面を、映画などで見ることがある。
作者は沖縄の海岸でそんな光景を目にしたのではないか。暮れるにつれて知り合いが集まってくる。砂浜に車座になって泡盛を飲み、酔いが回れば三線に合わせて賑やかにカチャーシーを踊る。作者も踊りの輪に入ったのかも知れない。
沖縄の夏は昼間の暑さを避け、人々が戸外に出て活動的になるのは日暮後と言われる。那覇の繁華街も賑わい出すのは夜8時過ぎだ。月見草は夜になって花を開く。作者は「三線欲しき」と詠むことで、月見草が群生する浜辺に友が群れ集う光景を思い浮かべている、と読み解いてみたがどうであろうか。
(迷 23.08.04.)
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