緑陰の中へ消え行く中山道    金田 青水

緑陰の中へ消え行く中山道    金田 青水

『合評会から』(諏訪吟行)

迷哲 諏訪吟行で、諏訪大社下社秋宮から中山道を歩いた際に、街道の坂の上で緑に包まれた諏訪湖を遠望しました。諏訪から先、岡谷、塩尻を経て、木曽谷を抜け、大津まで通じていると想いを馳せたのでしょう。
百子 雰囲気のある句だと思います。
てる夫 諏訪大社の境内のスケールの大きさ、深みが窺える句です。
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 下社秋宮から春宮へ中山道を歩いている途中分岐点の標識があった。左は下りで春宮へ行く道、右は上りで木落とし坂へ行く道である。皆が下り坂へ行こうとする時に、この句の作者が上り坂の方に少し足を向けたことをはっきり覚えている。その時は木落とし坂へ行きたいのだろうかと思ったが、迷哲氏の評のとおり、高みから湖や山々の光景を見て、中山道のはるかな道のりに思いを馳せたのだろう。
 この句の「緑陰の中へ消え行く」、なかんづく「消え行く」の四文字が、なんともいえない郷愁を醸し出している。「消え行く」は、「消えてなくなる」のではなく、街道が「消えてなお続いて行く」ことをイメージさせる。夏の旅にふさわしい、清新な味わいの句である。
(可 23.08.02.)

この記事へのコメント

  • 金田 青水

    八十歳で初めて諏訪を訪れたボクに、仲間が、江戸の将軍へ降嫁するため、幕末の混乱の中を、京から中山道を辿った皇女和宮の逸話を「これが宿泊された本陣」などと、教えてくれた。諏訪の夏の深い緑に圧倒され、ボクが道に迷ったところを、評者「可」さんに救われた。その戸惑いを俳句にしたのだが、「可」さんは、ボクの心理までを読み解いて句評としている。平凡な俳句が、血肉を纏うという典型である。この句評は吟行句評の傑作です。
    2023年08月02日 08:51