外苑の学徒の木霊白い夏 岡田 鷹洋
『この一句』
木霊(こだま)とは、樹木に宿る精霊のことをいう。『古事記・日本書紀』に登場する木の神・ククノチが木霊とされており、平安時代の『和名類聚抄』には木の神の和名として「古多万(コダマ)」の記述がある。山や谷に音が反射して聞こえる山彦(やまびこ)は、この精霊のしわざとされ、木霊・木魂とも呼ばれるようになった。
掲句は夏の日の神宮外苑で作者が聴いた精霊の声を詠む。外苑の学徒と言えば、昭和18年秋の出陣学徒壮行会がまず思い浮かぶ。戦況の悪化により、それまで徴兵を猶予されていた20歳以上の学生・高等専門学校生が動員されることになった。秋雨降る陸上競技場には7万人が参加、終戦までに13万人の学生・生徒が中国大陸や南方戦線に送られ、多くの戦死者を出した。神宮の森から出陣し英霊となった彼らは、今の日本をどんな思いで見ているのだろうか。
さらに現在の外苑は再開発計画に揺れている。野球場、ラグビー場の建て替えを機に、高層ビルや商業施設を建てる計画で、千本もの樹木が伐採・移植される。外苑は明治神宮の創建に合わせて、全国からの献木と勤労奉仕で造営された。名物の大銀杏など樹齢は百年近い。市民の反対運動が巻き起こったが、地主の明治神宮や東京都は強行する構えである。伐採される木々に宿る精霊の嘆きの声もまた木霊する。
作者は白い夏について「白っちゃけた気分をシンボリックに表現した」と自解しているが、外苑の森で英霊と木霊の声を聴き取った、渾身の警世の句ではなかろうか。
(迷 23.07.24.)
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