サングラス真似たタフガイみな鬼籍 杉山三薬
『この一句』
サングラスが大流行したのは1950年代末から60年代末までのほぼ10年ほどだったろうか。石原裕次郎、小林旭、高倉健といったスターがこぞってサングラスをかけ、それがまたよく似合ったものだから、ヤクザや愚連隊のあんちゃんはもとより、ちょっと流行を気にする若手サラリーマンまで、誰も彼もが競うようにかけた。
しかし当時は、まだ「色眼鏡」という言葉が残っていた時代で、目が悪くもないのに色眼鏡をかけるのはマトモではないと見做す人も多かった。だからサングラスをかけるのには少し勇気が必要だった。そこがまた人より半歩先を歩きたい、人と少し違った自分を見せたいという若者には魅力的で、重要な小道具ともなったわけである。
その後、日本全体が豊かになり落着いて来るにつれて、サングラスは肩で風切る兄さん達の小道具から、普通のファッション小物になった。それと共に女性が掛けるようになり、しゃれた婦人用サングラスがデパートの一角を占めるようになった。
時うつり令和の世の中。サングラスのよく似合ったスターたちも、それを真似して粋がった市井のタフガイたちも、みんな三途の川を渡ってしまった。この句はサングラスを材料に敗戦後80年がたとうとする日本の辿ってきた道程を手繰り寄せる、巧みな句である。
(水 23.07.23.)
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