千円のうな正うな丼句会ごと 金田 青水
『この一句』
兼題「鰻」で出された一句。「うな丼」は「うなぎ丼」としないと季語にならないと思うが、それはともかく「うな正」とは何か。種明かしは神田にあるうなぎの人気店だ。人気の秘密は安さにある。最近、この店のうな丼も千百円になったが、つい先日までは千円で十円のおつりがきた。うな丼ダブルというメニューは、うな丼の御飯の中にも鰻の蒲焼が潜んでいる独特な丼。かつて筆者の先輩は「(鰻と御飯の案配を考えずに)行き当たりばったりで食える」と喜んでいた。作者が句会の度に、その“千円”うな丼を食しているのを筆者も何度か目撃した。
もう一句、愉里さんの「きくかわのお重はみ出す蒲焼や」という句もあった。こちらの「きくかわ」は、神田にある鰻の老舗。メニューによっては鰻の尾が重箱からはみ出し、折り返されている。当然ながら、お値段もそれなりに張る。
三島や成田などの鰻にちなむ地名ではなく、ピンポイントで知る人ぞ知る店名を詠み込み、職場にも近く馴染みがある人が「ああ、あの店ね」と選んだ。
俳句は「座の文芸」といわれる。座に集う個の言葉を、同席した仲間が共有することで独特の場が成り立つ。連句などはその最たる座だ。そういえば、「蒲焼」は季語とされてないが、兼題を出した水牛さんの判断で、この句会では「蒲焼」も季語とした。これもまた「座の文芸」ならではだ。
(双 23.07.17.)
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