素手で魚捕まえる子ら雲の峰 金田 青水
『この一句』
魚獲りに興じる子供たちと入道雲を対比して描いた夏らしい一句である。一読して、少年の頃川に石を積んで、鮎を素手で捕まえたことを思い出した。鼻奥にスイカに似た鮎の匂いも蘇り、嬉しくなって点を入れた。
昭和三十年代までは日本はまだ貧しく、魚獲り用の大きな網を持っている子供は少なかった。魚を浅瀬に追い込んだり、潜って岩陰を探ったりして素手で捕まえる工夫をしたものである。評者の田舎では鮎を獲る時は浅瀬に石を楕円形に積んで小さなプールを作り、川下に開けた口から鮎が入ったらふさいで捕まえた。
掲句はそんな時代の少年たちの夏の日を活き活きと描いている。なにより「素手で」が眼目で、パンツ一枚で川で遊ぶ少年の姿や、捕まえた魚のヌルヌルする手触りや匂いまで想起される。素手で獲るという手元の描写から、遠景の雄大な雲の峰へ視線を転じさせる遠近の対比も効果的だ。子供たちが自然に抱かれ、伸び伸びと遊んでいた古き良き時代へのノスタルジーも感じる。
作者は新潟県糸魚川市の郊外のご出身と聞いたことがある。句会では「昔の実体験をそのまま句にしました」と語っていたが、どこの川でどんな魚を捕まえていたのであろうか。川で遊ぶ少年たちと大きな白い雲、まさに夏を切り取った水彩画のような句である。
(迷 23.07.14.)
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