桶に居て鰻は客に覗かるる    今泉 而云

桶に居て鰻は客に覗かるる    今泉 而云

『合評会から』(番町喜楽会)

双歩 鰻の視点という工夫を買います。上田五千石の「渡り鳥みるみるわれの小さくなり」と同じ発想ですが面白いですね。
白山 「蒲焼の匂ひくぐりて成田山」という句もありましたが、この句も成田山の参道の様子を詠んだ句ではないでしょうか?
水馬 視点の面白い句だなあと思いました。
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 白山さん同様、筆者も成田山の参道にある店先で桶に入った鰻を捌いている光景に違いないと思った。ところが、作者によれば、これは三島にある有名な鰻屋で、店の裏側から入ると、生簀の鰻を見ることが出来るとのこと。
 この日詠まれた鰻の句は三十句。大半は鰻全般を詠んだ句であるが、地名や店名を読み込んだ句も多く、分布をとってみた。二句詠まれたのが成田山と三島。掲句には三島の地名はないが、作者自解により三島とカウントした。一句だけの地名は、佐原、浅草、川越、四万十。具体的な店名は、「きくかわ」・「うな正」、なんと「吉野家」という傑作もあった。それぞれの詠み手の来歴や居住地も反映して、こだわりのあることがよく知れて面白い。
 掲句の良さが、まさにお二人が指摘されたとおり、視点の面白さにあるのは言うをまたないところである。さんざん客に覗かれた挙句、目打ちされて裂かれる鰻に、ちょっとペーソスも感じられる句である。
(可 23.07.10.)

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