黄金虫通帳ながめ吐息つく    中野 枕流

黄金虫通帳ながめ吐息つく    中野 枕流

『この一句』

 句会でこの句を見つけて思わず笑いがこみ上げた。この句会は新聞社のOBを中心に、その友人知己と、現役ぱりぱりも含めた集まりである。変な言い方だが、経済的にはまずまず安穏なレベルの人たちだ。そこに突然、預金通帳の残高云々が出てきたのである。
 今回の兼題は「黄金虫」。近頃、東京近辺では黄金虫をあまり見かけなくなってしまったので、急にそれを詠めと言われても、参加者一同「どうしよう」と困ったらしい。大方は昔の思い出を手繰り寄せて、明るい窓にぶつかって来る黄金虫や、地面に落ちてじたばたしている様子を詠んだ句が多かった。そうした紋切り型の並ぶ選句表の中で、この句は一際目立った。
 おそらく大正昭和の童謡詩人野口雨情の「黄金虫」に触発された句であろう。この童謡がまた実にヘンチクリンで、面白い。
  こがねむしはかねもちだ
  かねぐらたてたくらたてた
  あめやでみずあめかってきた
というのである。二番は最後のフレーズが「こどもにみずあめなめさせた」となっている。とにかく何のことやらさっぱり分からない唄だが、私などは子供の頃面白がってしきりに歌った。
 いまどきの黄金虫は水飴ではなく通帳ながめて「あーあ」と言っているのだろうか。
(水 23.07.09.)

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