出迎えはかなぶんぶんの無人駅  星川 水兎

出迎えはかなぶんぶんの無人駅  星川 水兎

『季のことば』

 かなぶんとは黄金虫(金亀虫)の別称である。黄金虫はコガネムシ科の甲虫の総称で、色も種類も多い。夏の夜に灯火をめがけて飛んできて賑やかに飛び回る。角川俳句大歳時記には「かなぶん、ぶんぶんはその音からでた呼び名」とあり、いずれも夏の季語である。「かなぶんぶん」は歳時記にないが、金子兜太の句に「俳人にかなぶんぶんがぶんとくる」があるように、語呂の面白さから、かなぶんぶんを使った例句も散見される。
 掲句は黄金虫を無人駅の出迎え役に擬して、日経俳句会の6月合同句会で最高点を得た。中の七音を「かなぶんぶん」で使い、その前後に出迎えと無人駅を配したシンプルな構造なのに、夏の夜の無人駅の情景がまざまざと浮かんでくる。
 まず「出迎えはかなぶんぶん」の入りが上手い。黄金虫が出迎えるような場所は何処だろうと疑問を抱かせる。擬音の繰り返しが効果的で、黄金虫がぶんぶんと飛び回る音が聞こえてきそうだ。そして下五の無人駅で「そうか」と得心し、今度は人影のない駅にともる外灯、その周りを飛ぶ黄金虫の映像が浮かび、さらには無人駅を包む暗闇まで見えてくる。
 仮に季語に黄金虫やかなぶんを使っていたら、「飛ぶ」や「だけの」など別の言葉、要素が加わっていたであろう。かなぶんぶんに七音を使ったことで、無人駅と黄金虫が夾雑物なく結びつき、余情をたたえる句となった。盛り込む言葉や要素を選び抜き、読者の脳裏にあるイメージに委ねるという句作のお手本のような句である。
(迷 23.07.05.)

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