父の日や無口息子のメール来る 髙石 昌魚
『合評会から』(日経俳句会)
木葉 父の日に普段無口な息子が、ちゃんとメールを送ってきたという微笑ましい情景が浮かぶ。
三代 女の子って違って、男の子ってあんまり父親とは口をきかないのが、そっとメールで送ってくれたら微笑ましいし、その心情がすごく分かっていいなと思いました。
百子 子供はいつも親の子と思っているのですね。ありがたいです。
明生 今どきの息子と親父の距離間を上手に表した句だと思いまです。
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母親と娘の仲が良く、おしゃべり好きなのは一般的だが、父親と息子の関係は複雑である。幼い頃は畏怖と尊敬の対象であっても、息子が思春期を迎える頃には乗り越えるべき壁となる。つい反抗的な態度をとり、会話も必要最小限になる。そうした体験が尾を引き、ぎくしゃくした関係の父と息子は多い。
掲句は父の日に絡めて、息子との思いがけない心の交流を描き、共感を得た。作者の息子さんが生来の無口なのか、わだかまりがあって会話が少ないのかは不明だが、「無口息子」の四文字がいろんな状況を想像させる。そんな息子から届いたお祝いのメール。事実を淡々と詠んだ句である故に、よくぞ送ってくれたとの作者の喜びが言外に伝わってくる。
作者は句会最長老の94歳。この年齢でメールを使いこなす精神の若さに驚くが、メールでは伝えきれない思いもある。作者はこの後、息子さんに電話し、久しぶりに語り合ったと想像したい。
(迷 23.06.28.)
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