ちゃぶ台の父は動ぜず黄金虫   高井 百子

ちゃぶ台の父は動ぜず黄金虫   高井 百子

『季のことば』

 掲句は日経俳句会系三句会の合同句会の兼題「黄金虫(こがねむし)」を詠んだ高点句中の一句である。黄金虫には他にも別の呼び名があり、投句には「かなぶん」「ぶんぶん」「かなぶんぶん」などの名も登場していた。句会後に「なるほど、いろんな呼び名があるのだな」と頷きつつ、ネットで検索してみたら、びっくりする説明が現れてきた。
 あるサイトにはこう記されている。「コガネムシは草花を荒らす害虫」「カナブンは土壌を改善してくれる益虫です」。「コガネムシが害虫?」と我が目を疑った。生まれて八十余年の常識が覆された。さらにもう一種、ハナムグリという益虫も存在するという。ハナムグリは別に置くとして。「黄金虫=カナブン」の常識はこのままでいいのだろうか。
 ネットの説明は、農業家や草花愛好家などのために書かれているのだろう。では俳句愛好家の場合はどうするか。手元にある「日本大歳時記」など五冊はすべて黄金虫とカナブンの昆虫学的な区別はつけていない。「かなぶん、ぶんぶんなどはその羽音から出た名前で」などとし、「黄金虫=かなぶん」の立場を守るが、このままでいい、とも思えない。
 俳句の季語などに、百科事典のような知識を持つ大澤水牛さんはこう話す。「黄金虫、カナブン、ハナムグリは同じ仲間だが、黄金虫だけはその幼虫“ネキリムシ”が大切な野菜を片端から食ってしまうので、昔から忌み嫌われていた」。黄金虫類の世界は、益虫系、害虫系が混在しているのだ。私は腕を組み、呟く。「つまり人間社会と同じことだ」
(恂 23.06.25.)

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