合掌の肘に傘提げ梅雨の葬    今泉 而云

合掌の肘に傘提げ梅雨の葬    今泉 而云

『この一句』

 何と上手い描写だろう、と一読、感服した。読み下しながら、筆者が感じたことを順を追って述べると次のようになる。「合掌の肘に傘下げ」――手を合わせて拝む姿勢だと、畳んだ傘は肘に下げるしかないよね。「梅雨の」――この時分は傘は手放せないし。「葬」――あっ、葬儀のワンシーンなのか。とまあ、最後の「葬」まで読んで、ようやく状況が明確になる仕掛けだ。たった十七音で作者の仕草、置かれた状況をはじめ、周りの風景まで見えてくるではないか。同じ情景に筆者が出会っても、ここまでさりげなく、しかも正確に描写するのは無理だ。先ごろ行われた双牛舎俳句大会で「天」に輝いた一句である。
 双牛舎は、俳句の普及・振興を目的に2007年に発足したNPO 法人で、このブログの発信元だ。会員には日経俳句会、番町喜楽会、三四郎句会の3句会のメンバーが連なる。「双牛舎」の名の由来は、創設した大澤水牛さんと今泉而雲さんが二人とも丑年だったことに因んでいる。
 この日、掲句とともに、水牛さんの「処方箋一行増えて梅雨に入る」が同点の11点を獲得した。この作品も説明は不要、しみじみとした実に素晴らしい一句だ。コロナ禍で4年振りの俳句大会の開催となったが、冠大会で創設者二人が仲良く「天」を分け合うという何とも粋な結果となり、万雷の拍手を浴びた。
(双 23.06.15.)

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