大ぶりも小ぶりも細し薔薇の首  中嶋 阿猿

大ぶりも小ぶりも細し薔薇の首  中嶋 阿猿

『季のことば』

 薔薇(ばら)はバラ科バラ属の総称で、北半球の温帯域に約200種類の野生のバラが自生しているという。水牛歳時記によれば、俳句で薔薇と言えば、花の色が多彩で華麗な西洋薔薇か中国渡来の薔薇をさす。一年中目にするが、元々の花の盛りである夏(初夏)の季語とされる。日本原産の野いばらは季語としての薔薇には含まれず、「野茨(あるいは花茨)」という別の夏の季語となっている。同歳時記は「俳諧的感覚からすれば、派手な薔薇と白く清楚な野いばらは到底一緒になれないということであろうか」と解説している。
 掲句の薔薇は、当然あでやかに咲く西洋薔薇であろう。句は花を直接叙述せず、それを支える首(茎)を詠む。「大ぶりも小ぶりも細し」と強調することによって、その細い首に支えられた花の形、重さを想像させる。句会では「薔薇の首の細さを発見した句」(三薬)とか、「観察眼の冴え」(健史)など着眼の良さを評価する声が多く、高点を得た。
 さらに言葉の選択、語順の工夫も見逃せない。「大ぶりも小ぶりも細し」という謎かけのような対句表現のリズム。下五の「薔薇の首」で謎が解け、確かにそうだなと思わせる説得力。そして細い首の先の薔薇の花に読者のイメージをいざなう展開。見たままを詠んだ写生句のようで、実は技巧を凝らした句に思えてくる。
(迷 23.06.12.)

この記事へのコメント

  • おとりあげくださり、ありがとうございます。ベランダで鉢植えの薔薇を育てています。一方の鉢は小ぶりの花、もう一方は少し大きな花を咲かせています。どちらも綺麗でかわいいのですがどうも花が下を向きがちで、花の重さに対して花首が華奢すぎるのかなあ、などと思っていてふと句になりました。
    2023年06月22日 10:18