何処よりみずすましきて池の澄む 野田 冷峰
『季のことば』
「水澄まし」という昆虫には二種類ある。まず生物分類学で言うミズスマシは、黒豆のような光沢のある甲虫で鞘翅目ミズスマシ科。池や流れのゆるやかな小川の水面をくるくるくるくる忙しく回っている体長5ミリほどの昆虫である。水面を舞い踊るように見えるので「まいまい」とも呼ばれる。
もう一つのミズスマシは「あめんぼう」とも呼ばれ、長い足で水面を滑るように走ったり跳ねたりする虫である。半翅目アメンボ科の昆虫。捉まえると飴のような匂いがするので「飴ん棒」と言われるようになったとの説がある。極めて軽い体重で、糸のように細く長い足の先に細かな毛が生えて水をはじくようになっており、水の表面張力を利用して身体を浮かせ、水面滑走ができる。
どちらも夏場の雨上がりの水溜りなどに飛んで来る。というわけで、作者は「まいまい」のみずすましを詠んだのに、読者はアメンボを思い描くといった“行き違い”がしばしば起こる。しかしまあ、これは致命的な誤解というほどのものではない。まいまいもアメンボも出現の季節もほぼ同じ、5,6月の雨上がりの水辺を賑わす小さな役者で、見る人を楽しませ和ませてくれるところも一緒だからだ。
この句のみずすましは、さて「まいまい」か「アメンボ」か。これはとても分からない。読者が好きな方を選んで、情景を思い描けばいい、という実に面白い句だ。
(水 23.06.11.)
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