蟇出でて文句あるかの面構 玉田 春陽子
『この一句』
この句の季語は「蟇」すなわち「ひきがえる」。なんともユニークな貌をしていて、作者はそれを「文句あるかの面構」と詠んでいる。喧嘩腰の言葉のようにも思えるが、俺は生まれつきこんな貌、誰にとやかくいわれる筋合いのものでもない、と開き直っていると捉えるのが正解だろう。この句会では「じつと何か考えている蟇」、「大海の海鼠を知るや蝦蟇」という句も出された。いずれも蛙の貌つきや見た目を詠んだ句である。
蛙は漫画の題材にされることも多い。古くは国宝「鳥獣人物戯画」。兎と弓競べをしたり、相撲を取ったり、人間に擬して描かれている。わたしたちの世代にとって馴染み深いのは、Tシャツの中に棲息するピョン吉が活躍する「ど根性ガエル」。ずっと後のものでは、ジブリ映画の「千と千尋の神隠し」の烏帽子をつけた蛙達も印象深い。いずれも、人間と親和性が高く、コミカルなキャラクターとして蛙が描かれている。
この句を引き立てているのは、なんといっても「面構」だろう。この言葉が下五に置かれたことで一句の重みが増し、蟇の貌のみならず、鎮座する姿まで生き生きと目に浮かぶようだ。作者の言葉のセンスの良さをあらためて感じさせられた。
(可 23.06.02.)
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酒呑堂