冷奴女将に小さき依怙贔屓 玉田 春陽子
『この一句』
小学生の頃「あの先生、えこひいき」という呟きを、何度か聞いた覚えがある。出来のいい子や将来の美人などに、先生がちらりと見せる無意識的な態度と言っていいだろう。先生は表情に出さないのだが、何とはなしの態度が、特に敏感な女子生徒に見抜かれてしまうのだ。それがどうやら、街の小料理の女将などにも見つけることが出来る、と掲句は、やや悔し気に訴えている。
但しこの句は「冷奴を少し多めに」などと述べているのではない。冷奴はこの句の付け出しのようなもので、駅裏辺りの小綺麗な店の、そしてまた小綺麗な年増女将が、お気に入りの客にちらりと見せるまなざし、あるいは笑顔など・・・。つまり「冷奴」の一語で表されるような店の雰囲気を詠んでいるのだ。この句を選んだ数人は「上手く詠むもんだねぇ」と感心していたと思う。
美人女将。中でも手伝いは一人、という程度の店をやっている女将の多くは、しっかりした芯を身に備えている。一家を支えている、というような重責を担っているからだろう。その女将が時に見せる小さな依怙贔屓。そんな態度が見えたにしても、酒場の通は決して嫉妬したりはしない。「そうかね、なるほど・・・」。そんな小料理屋の雰囲気を、作者は楽しんでいるのだ。
(恂 23.05.19.)
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