風薫るマチスのダンス回り出す 須藤 光迷
『この一句』
マチスのダンスとは面白い材料を詠んだなと思った。しかし、「風薫る」「回り出す」と動詞が多いのがうるさく思われ、採れなかった句である。「薫風や」なら一番に採ったのになあ、と思った。句会の席上、作者に疑問を呈したが、「動詞が好きなんだ」とかわされてしまった。
酔って句会から帰って、あらためてインターネットで、マチスの「ダンス」の画像を見た。背景の色調の異なる二つの絵があったが、いずれの絵もヌードの五人が手を繋ぎあって輪舞をしている絵である。見ているうちに、作者は季語も踊らせようとしたのかなと思えてきた。「薫風や」とすると、そのことで輪舞が止まってしまいそうな気がする。この句は、季語にも一緒に踊ろうよと誘っているのかも知れない。よく見ると、手前で踊る二人の手だけが離れていて、手と手の間に誰かが入って来るのを期待しているようにも見える。この句についていえば、「薫風や」がもたらす諧調は、あまり歓迎されないのかもしれないと思った。
そう思って一夜明けて、あらためてこの句を見たら、やはり「薫風や」にしたくなった。困ったビョーキである。上野で開かれているマティス展に行って、頭の中をリフレッシュせねば。
(可 23.05.18.)
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