昼食は日比谷のテラス若葉光   廣田 可升

昼食は日比谷のテラス若葉光   廣田 可升

『季のことば』

 初夏の気分の良さを示すものはたくさんあるが、中でも「若葉」は横綱格ではないか。枯枝から芽吹いたいたいけな芽が徐々に葉を広げ、五月の声を聞くころには木全体が萌葱色になる。回りの木々も同様に葉を茂らせ、日を追って緑を深め、やがて「若葉」は「青葉」になる。
 晩春から初夏にかけての木々の「目覚め」は人間を大いに元気づける。萎えていた体に活を入れられ、背筋が伸びるような感じである。日本人は特にこれを好み、和歌俳諧では初夏の代表的な歌材となって、現代にも受け継がれている。
 「若葉光」と「光」という字をつけて詠まれることも多いが、これは「若葉の輝き」を称揚する気持を強調したものである。若葉を輝かす初夏の陽射しや、それによって醸し出されるすっきりとした気分、あたりの雰囲気をも含んでいる。芭蕉が「奥の細道」の旅で日光を訪れて詠んだ「あらたふと青葉若葉の日の光」がまさにこれである。
 さて掲句。何と言う事もない詠み方だが、すっきりして実に気持が良い。この「昼食は日比谷のテラス」は何処か。私は勝手に日比谷公園の老舗松本楼のテラスと決めつけたのだが、やはりそうだということで嬉しくなった。1961年夏、警視庁詰めの駆出し記者の私はヘマばかりやって打ちひしがれ、しばしば日比谷公園をさまよった。その時の「若葉光」が脳裏に焼き付いている。
(水 23.05.14.)

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