青不動青鮮やかに花の寺     中嶋 阿猿

青不動青鮮やかに花の寺     中嶋 阿猿

『この一句』

 青不動とは仏像「不動明王」の中の、全身が青で彩られた仏様のことだ。大日如来に従い、悪魔を退治する実働部隊の一員と見ていいだろう。古来、広く庶民の信仰を受けており、親しみ込めて「お不動さん」と呼ばれる中の一尊である。東京近辺では目黒不動、目白不動などが有名だが、句のお不動さんに相応しいのは、京都と滋賀の境、比叡山の「青不動」だろう。
 作者はもちろん、花見のために寺院を訪れていた。そこで突然、青不動に対面する。「桜色」を心に描きながら、図らずも「青」に出会ってしまったのだ。お花見という浮き浮きした心が、青不動の「青色」に対して、どのように反応したのだろうか。掲句に出会った時の私の場合を言えば、心中から「桜色」が消え、お不動さんの「青色」に占められていたのであった。
 日経俳句会4月例会の兼題が「花」(桜)であった。句会の参加者は、桜色に彩られた風景を心に描きながら句を作り、句を選んでいたはずだ。筆者(私)もその一人だが、掲句に出会った時は、軽いショックを受け、今もこの句の持つパワーが胸中から消えていない。ところがこの句を選んだのは二人だけに留まった。凄い句なのに、と私はまだ考え続けている。
(恂 23.05.08.)

この記事へのコメント

  • おとりあげくださり、ありがとうございます。たねあかしは野暮と知りつつ・・・思い浮かべていたのは、吉野、金峰山寺の秘仏、金剛蔵王大権現と京都、青蓮院門跡の青不動です。「『青』に出会ってしまう」というのはなんと素敵な表現でしょうか。
    2023年05月11日 17:05