卒業式初めましてと言いそうに 杉山 三薬
『この一句』
初見では一瞬、何のことか分からない。よくよく考えてみると、あ、そうか、今年の卒業式はやっとマスクが外せるようになったので、それを詠んだのだ、と気づく。やや回り道を強いるが、読者にはちゃんと伝わったようで、時事句を得意とする作者の面目躍如、高点を得た。
文部科学省は2月、学校の卒業式について「児童生徒と教職員はマスクを外すことを基本とする」との通知を都道府県教育委員会などに出した。校歌斉唱などはマスク着用を求め、保護者や来賓はマスク着用とした。これにより今年は、小中高校をはじめ、大学や専門学校などでもマスクなしの卒業式が開催された。
「新型コロナ」という訳の分からないウイルスが全世界に蔓延し、腫れ物に触るように恐れおののいていた2020年4月。小学校はもとより中学校や高校は入学式すらできない状況だった。生徒らは、入学以来3年間、一度もマスクを外す機会がないまま卒業を迎えた。それが、やっと卒業式になって初めてマスクなしでも良いとされたのだ。
「急に外すのは違和感がある」、「受験を控えて、感染が心配なので」とマスクを着用する生徒もいたようだが、「最後にマスクなしの顔を見られて嬉しい」と素直に喜ぶ声をニュースが伝えていた。
あれから3年という月日が、掲句の背景に流れている。
(双 23.04.06.)
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