土黒く土温くして福寿草     鈴木 雀九

土黒く土温くして福寿草     鈴木 雀九

『この一句』

 福寿草と聞くと大方の人は正月飾りの盆栽仕立てを思い浮かべる。しかし、自然のままの福寿草は二月半ばから三月にかけて咲く。この句も二月半ばに俳句仲間連れ立って府中の公園に吟行に出かけたときのものである。
 「梅の根元に福寿草が咲いていました。土が黒く、温いからあんなに黄色が強いのですね。季重なりかなあと思ったのですが、美しい福寿草がそんなのいいさと私に言いました」(三代)、「土、土という言葉の繰り返しがリズムを生んでいます。地球と花のパワーを感じます」(水馬)と、ホンモノの福寿草を見つけた喜びを作者と分かち合っているような句評が寄せられた。
 「土黒く土温く」がこの句の眼目である。豊かな栄養分と陽射しを浴びた「黒く温みのある土」に根付いた植物はすくすく育ち、美しい花を咲かせ、立派な実(種子)をつける。しかしそういう場所は少ない。しかも植物は動物と違って自由に動き回り己の住処を探すことは出来ない。だから、種子に羽を付け風で四方に吹かれ飛び散るようにしたり、四方八方に根を伸ばして子孫の繁殖地を見つけたりする。しかし、いずれも「あてずっぽう」である。何千と飛ばした種子が適地を見つけて芽生え花咲くのは三つか四つといった確率であろう。
 「お前、いいところに陣取ったなあ」と、作者は自分のことのように喜んでいる。そんな気分が伝わって来る句である。
(水 23.04.03.)

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