ダウン着て少女ビラ撒く余寒かな 中村 迷哲
『合評会から』(日経俳句会)
雀九 想像する景色は人によって違うと思うが、私は神楽坂のガールズバーの前でダウンを着た少女を見たことがあり、その光景を思い出した。
方円 以前から嫌な光景だなと思っていた。よく俳句にしてくれた。
鷹洋 地元の赤羽でも十代とおぼしき少女が派手な格好をして立っている。確かに嫌な光景だが、いかにも現代的だなと思って頂きました。
青水 季語の雰囲気をきちんととらえている。様々な物語が生まれてきそうだ。
明古 解決していないこと、訴えたいことがあり、 ビラを撒く。大人ではなく少女である点に切迫したものを感じ、 季語が通奏低音になっている。
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句会に出た多くの人が、いかがわしい店の女の子の客引きビラ配りを思い浮かべたようだ。作者もその情景を詠んだのだと言う。即ち現代盛り場風景である。しかし私はとっさに自宅近くの駅前でのビラ撒きアルバイト少女を思った。横浜の住宅地では高校生のアルバイト先は駅前のビラ配りくらいしか無い。それも概ねマンション販売チラシ。みんな受取りを拒否する。ビラを撒き終えない限り少女は帰れない。大変だなと思うので、私はいつも突き出されるビラを必ず貰うことにしている。
「ダウン着て」という表現に余寒の中のビラ配りの感じがよく出ている。ところがこの句の少女は、寒空でビラ撒きした上に「接待」労働をせねばならないのだから、なおさら大変だ。
(水 23.03.10.)
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