花柄の傘の手すくむ余寒かな  溝口 戸無広

花柄の傘の手すくむ余寒かな  溝口 戸無広

『この一句』

 立春過ぎて暖かい日が続き、「もう春なんだ」と、傘も花柄のおしゃれで華やかなものに換えた。ところがまた真冬の寒さに戻り、氷のような雨で柄を握る手がかじかみそうだ。せっかくのお洒落傘が何だか場違いな感じになってしまったと独り言ちている。選句表にこの句を見つけた時、「余寒」という季語の持つ雰囲気をとても上手に詠んだものだなあと感心し、真っ先に選んだ。
 当然、作者は女性だろうと思っていたら、男だった。現代版紀貫之にしてやられた。私だけではない。「花柄がいいですね。せっかく春の柄の傘をさしたのに・・寒い。女性の細やかさを感じます」(百子)、「春らしい傘の絵柄との対比が絶妙です」(芳之)、「花柄から人物のイメージが膨らみます」(健史)とみんなそう思っていたような句評である。
 これは「なりすまし」の句なのか。それとも男だけれども花柄の傘を持っているのか。「同性婚を法律で認めるよう、法改正を」と国会論議がなされる世の中。「男だから・女だから」と言うのは差し障りが出てくる恐れがあるから、この論議はここで止めよう。
 兎にも角にも、この句は男でも女でも、なかなか面白い。
(水 23.03.06.)

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