梅東風や茶筒の蓋のぽんと鳴る 星川 水兎
『季のことば』
東風(こち)は春先に東(太平洋)から吹いてくる風のこと。春を告げる風として古くから喜ばれ、ちょうど梅が咲く時期なので「梅東風」とも呼ばれる。雲雀東風や鰆東風などの季語もある。水牛歳時記によれば、南風(はえ)などほかの季節風に比べ東風の認知度は段違いに高い。菅原道真が大宰府で詠んだ「東風吹かば匂ひおこせよ梅の花あるじなしとて春を忘るな」が有名になったからという解説だ。言われてみれば道真の和歌や飛梅伝説を学校で習った記憶がある。
掲句はその梅東風に、何と茶筒の蓋の音を取り合わせている。吹く風に春の訪れを感じる頃、お茶でも入れようかと茶筒を開けたらぽんと鳴った。そうした状況を詠んでいるだけだが、作者の心の弾みが伝わってきて、何だか楽しくなる。梅東風は春到来を告げる風であり、梅が咲き、桜が咲く春本番への期待が膨らむ。ぽんと鳴った蓋は、驚きとともに茶柱に通じるような幸運をイメージさせる。季語と音がまさに響き合って、暮らしの中の小さな春と幸福感が伝わってくる。
茶筒の蓋を開けた時に音がするのは、容器の中の気体が一気に放出された時に、周りの空気を振動させるため。風船を割った時にバンと鳴るのと同じ原理という。掲句のぽんという軽やかな音は、読者の心にどんな共鳴音を残したであろうか。
(迷 22.02.27.)
この記事へのコメント