雪掻けば近所交流始まりぬ    高井 百子

雪掻けば近所交流始まりぬ    高井 百子

『この一句』

 作者が十年ほど前に移住した長野県上田市は降雨の少ない地域で、江戸の昔から溜池を構築して米作を維持してきた。冬の寒さは北国並みでも、降雪量はそれほどでもない。駐車場所から車を掘り出すのに半日かかったほどの大雪は、もう何年も記憶がない。この冬も各戸が人を出して道路の除雪をしたのは二月で二度だった。
 地域の古老の話だと、自宅周辺の除雪は自治会の指導で各戸の分担が決まっていたという。その名残か、向こう三軒両隣、誰が音頭をとるでもなく、除雪作業が始まり、そして終わる。学童の通学路は氷結しないよう、誰かが残雪を削り取る。決まりきった手順でもある。
 この句が言う「近所交流」の背景には、盛んな自治会活動の日常がある。自治会員は七、八軒単位の班にグループ分けされ、輪番制の班長が世話役。自治会の決定事項や広報などの連絡に当たる。班内に不幸があれば、葬祭の窓口役も受け持つ。信州ならではの流儀です。
(て 23.02.22.)

この記事へのコメント