ヨガマット伸べて瞑想日脚伸ぶ  廣田 可升

ヨガマット伸べて瞑想日脚伸ぶ  廣田 可升

『季のことば』

 「日脚伸ぶ」は冬至を過ぎて昼の時間が少しずつ延びていくことを意味する晩冬の季語である。水牛歳時記によれば、もうすぐ春が来るという気持が「日脚伸ぶ」には込められている。「春近し」「春隣」「春待つ」といった季語の仲間とも言うべき言葉で、待春の気分を具体的な日照時間の長さで表した、とされる。
 掲句はそうした春を待つ気持ちを、ヨガマット上の人物に重ね合わせて詠んでいる。広いリビングルームであろうか、床にマットを引き、ヨガのポーズを取っている。春が近くなって部屋の中に暖かい日差しが差し込む時間が長くなり、ヨガにもじっくり取り組める。ポカポカの日差しを浴びて瞑想する姿と、春への期待感がうまくマッチしている。マットを「伸べて」と季語の「伸ぶ」を掛け合わせた、さりげない言葉遊びも楽しい。
 ヨガは古代インドの宗教的な修行法が発展し、世界的に広まったとされる。呼吸法と瞑想を基本に、様々なポーズ(アーサナ)を組み合わせて心身の安定を図るのが本来の目的らしい。句会での作者の解説によれば、自宅でヨガに励む妻を詠んだと句という。ヨガのポーズは体や手足を曲げたり伸ばしたり、極めて数が多い。初案では脚のポーズを詠み込んだが、言葉がかぶるので瞑想に変えたとか。動きのあるポーズより、静かな雰囲気の瞑想のほうが、日脚伸ぶの柔らかな語感にしっくりくる。変えて大正解である。
(迷 23.02.13.)

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