蝋梅や肌のぬくみの帯を解く 星川 水兎
『この一句』
この句を読んで、何となく作者の見当がついた。和服を愛用しているという点もさることながら、独特の皮膚感覚の持ち主だからだ。解いた帯に肌のぬくもりが残っている、というなまめかしくも臨場感溢れる描写は、作者ならではの世界感だ。季語「蝋梅」にもよく合っている。蝋梅の名の由来は、ろう細工に似た花が梅と同じころに咲くからといわれている。やや肉厚で香りも強く、艶やかだ。
筆者が日経俳句会に入会したてのころ、同じ作者の「吐息つき真珠はずせり五月闇」という佳句に出会い、強く印象に残ったことも思い出した。パーティーにでも出席したのか、帰宅してやれやれと一息ついたところか。どことなく「花疲れ」を思わせるアンニュイな感じが似通っている。そういえば、杉田久女の「花衣ぬぐやまつはる紐いろいろ」という句もあった。
「蝋梅を取り合わせたことで、色気のある句になっています」(明古さん)、「艶めかしさが蝋梅とよく合っています」(百子さん)、「帯を解いているのはどこか?あれこれ想像がふくらみます」(弥生さん)、と女性から支持された。こういう繊細な描写に出会うと、男もついふらふらと魅了されてしまう。
(双 23.02.12.)
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