武家の出と言ふ姑の芋雑煮 高井 百子
『この一句』
日経俳句会の1月例会は初句会にふさわしく、雑煮が兼題となった。選句表には投句者の出身地を反映して、イクラ入りの蝦夷雑煮や餡子餅の讃岐雑煮など郷土色豊かなものが並んだ。おいしそうな雑煮を選ぼうと眺めていたら、掲句が目に留まった。
夫の実家で迎えた正月であろうか。家伝の芋雑煮を前に、姑が「そもそも我が家は武家の出で、この雑煮は……」などと出自と由来を嫁に聞かせている。武家生まれを誇りに生きてきたのであろう。和服を着こなす矍鑠とした老女像が浮かんでくる。正月の改まった気分と、伝統の重みみたいなものを上手に詠み込んだ句である。
姑自慢の芋雑煮とはどんな内容だろう。ネットで調べると、里芋を具材にした雑煮は東北地方や京都など各所で見られる。親芋から子芋がたくさん増えることから、子孫繁栄の願いが込めているという。京都は親芋や海老芋を丸ごと入れて白味噌仕立てに。山形や仙台では芋がらを柔らかく炊いて入れ、醤油ベースの出汁と合わせるようだ。
作者に問い合わせると、義母上は水戸の武家の出と言う。茹でた里芋と小松菜を乗せただけのシンプルな雑煮で、質素がモットーだったそうだ。水戸家といえば自尊心の強い家中として知られる。武家の出を常々口にする姑であれば、嫁であった作者の苦労もまたしのばれるというものだ。
(迷 23.01.24.)
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