夫在りし去年の師走のなつかしき 藤野十三妹
『合評会から』(日経俳句会22年下期合同句会)
愉里 一年前を懐かしむジーンとくる句だと。
可升 今年亡くされた。世間が忙しい師走に寂しさがいや増す。それをさらっと詠んでいる。「在りし」に漢字を使ったのもいい。
青水 そこに衒いもなく、句会を意識していない句としていい気持にさせてくれる。
道子 師走の忙しさに懐かしさがさらに増すのでしょう。胸に迫ります。
* * *
年の暮れにはさまざまな一年の思い出が脳裏をめぐる。せわしない世間と身辺をよそに忘れがたい記憶に瞬時浸るのもこの時期。作者は今年、長年連れ添った夫君を亡くし一人ぼっちになった。去年の今ごろは病床の夫もいて、なにやかやと世話を焼いていたのにという感慨が湧くのだろう。いずれにしろ、各々の選句者が口をそろえて述べたように、ジーンと胸に迫る句である。
先日久しぶりに句会に出席され掲句を投句した作者によると、夫死去後の後始末が大変だと言う。頼みの息子娘もおらず、自分ひとり相続に書類と電話の毎日で忙殺されている。そんな中、今日の句会があることに気づき思い切って家を出て来たとのことだ。「句会を楽しんでいます、今まで休んでいて損をした」とも。句会は日ごろのモヤモヤを忘れさせてくれる効用もあるようだ。
(葉 22.12.29.)
この記事へのコメント
酒呑堂
「なつかしき、がなア」などとつぶやきつつ、取らなかったのだが、こうして改めて読み返すと、実にいい句だと、取らなかったことを悔やんでいます。