にびの空木々薄墨に山眠る    篠田  朗

にびの空木々薄墨に山眠る    篠田  朗

『合評会から』(日経俳句会)

三代 にびと薄墨、山眠る。いろいろ情報が入り過ぎて、ちょっとカッコよすぎるとは思いますが、鉛色の空に木が影のようになっていて、情景がいいなと。
愉里 まず絵が浮かぶし、実際の情景も浮かぶ。鉛色のずしんとした雰囲気というか風景というか。そういうところが良いなと思って頂きました。
方円 どよんとした鈍色の空と薄墨と山眠るで、三つも同じようなイメージで、ちょっとしつこい。だけど殺し文句三つで、特に薄墨がぴったりだ。
二堂 昔、ちょっと水墨画を習ったんですが、そういう風景だなと思った。そんな風景を描いてみたいなと思った。
戸無広 日本画を見るようです。落ち着いた感じが出ています。
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 この句を採った人たちが「ちょっと言い過ぎ」と言いつつも褒めているのは、やはり重くたれこめた冬空の下に横たわる山という「水墨画の世界」に惹かれたからであろう。昔から日本人はこうした「枯淡の境地」を好み、憧れる。
 「にびの空」の「にび」とは「鈍色」、すなわちねずみ色で、何のことはない薄墨色のことである。ただし薄墨色にも濃淡さまざまある。上空はどんよりした鈍色で、山際、麓はやや明るい鈍色、そこに少し濃い墨色の枯木の山が眠る情景を作者は詠みたかったのではないか。それが結果的に「ちょっとしつこい」言い方になってしまった。もう少し練る必要がある句かもしれないが、眠る山の気分は充分に伝わってくる。
(水 22.12.15.)

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