あの人と遠目に知れる冬帽子    廣田 可升

あの人と遠目に知れる冬帽子    廣田 可升
十年の歳月隠す冬帽子       田中 白山

『この二句』

 冬帽子の態様を詠んで、句想が真逆の二つの佳句があった。見出しになっている「あの人と遠目に知れる冬帽子」と「十年の歳月隠す冬帽子 田中白山」である。二句を子細に読み解いてみると面白い。
 そもそも冬帽子の効用はなんだろう。いの一番は防寒である。イヌイットの毛皮フード、ロシアの熊や貂の帽子を見れば、それなくては酷寒を生き残れないだろうと思う。日本に厳寒の北海道があるものの、イヌイットやロシアのような帽子を被るのが生存の条件とはならない。効用の二番手はお洒落をアピールすることだろう。日本の寒さには、せいぜいフェルトの中折れ帽か毛糸の帽子を着用すればしのげる。三番目の効用は、変装と言わないまでもなんとなく人相風体を隠すということか。
「あの人と遠目に」は本人が人相風体を隠そうとしているかどうかは知らず、誰それだとバレバレなのである。日常見慣れた人はどんな服装をしてもその人と分かる。人は背格好、歩き方、何気ない仕草から個人を識別するからだ。三番目の効用をはなから度外視した冬帽子を詠んだというのが「遠目に」の句と言える。かたや「十年の歳月」の作者は、十年ぶりに旧知と出会った。帽子を被っていたその人と久闊を叙しあったあと、しげしげ見ればまぎれもなく十年の歳月の経過があった。知人が昔のままでいてほしかったというような雰囲気がある。心の中で三番目の効用を望んでいるのだ。その人が女性と仮定すればなお面白い。
(葉 22.12.14.)

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