谺さえ返さぬ山の深眠り 水口 弥生
『合評会から』(日経俳句会)
鷹洋 こだまを返さないというけど、本当はそうではないと思う。山の眠りが深いからということを強調したかったからでしょう。感じがよくわかる。
明生 ヤッホーという声に谺を返せないほど「山は深く眠っている」のでしょう。とらえどころがユニークだと思いました。
光迷 「谺して山ほととぎすほしいまま」(久女)という句の本歌取り云々はともかく、これはこれでよしということに……。
百子 面白い。熟睡している老人に、声を掛けても掛けても目を覚まさない、などと云う景を想像しました。
阿猿 「深眠り」という表現が面白いです。
三薬 雪が降ると谺が聞こえない。そういう所で詠んだんだろうと、良い所に目を付けた、と思ったんだが、深眠りっていう言葉が気になって止めました。
雀九 私は深眠りの発見が良いと思いました。
* * *
「深眠り」は作者の造語だろう。とても面白い。それはいいのだが、「谺さえ返さぬ」という所が理屈っぽい、それよりもむしろ何もかも全部吸い込んじゃうという詠み方ができないかな、などと思って敬遠した。しかし、合評会での評言を聞いているうちに、「谺さえ返さぬ深眠り」というのが俄然際立ってきた。「何もかも吸い込んじゃったから」谺さえ返さないのだ。こういう詠み方はすこぶる俳諧的だなと、改めて作者に頭を下げ、考えを改めた次第である。
(水 22.12.13.)
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双歩