大雪や乾布摩擦の父の背な 嵐田 双歩
『季のことば』
「大雪(たいせつ)」は二十四節季のひとつで、新暦の十二月七日ごろにあたる。水牛歳時記によれば、立冬、小雪に続く冬季六節季の三番目の季語で、「いよいよ本格的な冬到来」というのが本意である。ただ字面からどうしても「おおゆき」と読まれやすく、イメージが固まってしまうので、敬遠されがちな季語でもある。小さな歳時記には載っておらず、載っていても例句は極めて少ない。
番町喜楽会の12月例会では、選句表に大雪の兼題句が30句並んだが、明らかに雪景色を詠んだ句も散見された。その中で掲句は、季語の本意を踏まえつつ、乾布摩擦で冬本番を実感させる手腕が上手いと思い、真っ先に選んだ。木枯らしの吹くころ、庭でもろ肌脱ぎとなって乾布摩擦をする人物像は、厳しい冬とそれに立ち向かう意思を感じさせる。
さらに父親の背中を見せることで、句を奥行きの深いものにしている。乾布摩擦は古くからある健康法で、風邪の予防法として家庭や学校で広く行われた時期もあった。しかし皮膚を傷めることもあって、今では実施している小学校はなく、家庭でもほとんど見られなくなった。
とすれば、詠まれているのは老いた父親ではなかろうか。肉が落ち、カサカサの背中は、歩んできた星霜を物語る。時流に流されず乾布摩擦を続ける姿からは、信念を貫く一徹な性格がうかがえる。季語と中七下五が響き合って、人生の風雪に耐えてきた父への思いがしみじみと伝わってくる。
(迷 22.12.11.)
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