二股の大根切るに忍びなき 廣田 可升
『この一句』
大根は真っ白である。そして太くて長い。私が目にするのは、家内が近くの商店から買ってくるものばかりだから、すべて普通の大根である。作者は大根を作っている人から「こんなモノが出来まして」と二股の大根を頂いたのだろう。その大根を俎板に置き、作者は「さて、どうするか」と腕を組む。何しろ純白の、ずしりと重たげな大根の下半分が、二つに分かれているのだ。
私は俎板に真っ白な二股大根を置き、包丁を持って立つ自分を思い浮かべた。大根の“下半身”が真ん中から二つに分かれているのではなさそうだ。太い一本の胴から細い“足”が伸びているのだと決める。しかしそのように想像しても、大根に包丁を当て、ズバリと切る勇気が私から生まれるかどうか。
ならば細い方をぐいと掴み、ポキンと折るのはどうか。出来るかも知れないし、出来ないかな、とも思う。掲句を眺めながら、私は何とバカなことを、と自分を笑ったが、これは作者の仕掛けた冗談なのかも、と気づく。俳句という短詩は、一筋縄にはいかない手ごわい相手、という思いを深めた。
(恂 22.11.29.)
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