古書の値は鉛筆書きや一葉忌 玉田 春陽子
『この一句』
古書店の好きな筆者としては採らざるを得ない一句である。
古書の値付けは本を毀損するものであり、出来ればない方が望ましい。値付けの仕方は千差万別。市販の値札シールを貼るもの、店名入りのシールを作りそれを糊で貼るもの、あるいは、この句に詠まれたような鉛筆書き。店によってまちまちである。市販のシールや店名入りのシールは剥がしやすいものが良い。糊跡が残るときれいに拭くのは結構難しい。鉛筆書きは、最も古典的だが、買った後消しゴムですぐ消えるから有難い。値段を書き換えられるという、書店の側のメリットもあるのかもしれない。値段表示をしない店もある。例えば「一律定価の半額」というようなもの。絶版本には、定価より高くなっている古本も多く、そういう本をこういう店で見つけると嬉しくなってしまう。
この句の作者は「鉛筆書き」の素朴さに、なにかしら、懐かしさのようなものを感じたに違いない。ただ、合評会の場では、なぜ「一葉忌」なのかという疑問が多くの人から出た。
樋口一葉は、貧乏と戦いながら学び、「奇跡の十四ヶ月」と言われる短期間に、「大つごもり」「たけくらべ」「十三夜」など数々の名作をものにした。「廻れば大門の見返り柳いと長けれど、お歯ぐろ溝(どぶ)に燈火(ともしび)うつる三階の騒ぎも手に取る如く・・・」。「たけくらべ」冒頭の名文を改めて読めば、理屈は定かでなくても、この句を締めるには「一葉忌」しかないと納得する。ちなみに、一葉忌は十一月二十三日である。
(可 22.11.27.)
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