頼朝の墓の簡素や柊の香 田中 白山
『この一句』
小学校の遠足で鎌倉に行き、頼朝の墓を見た、という記憶はあるのだが、どんな墓だったのか、場所は鎌倉の何処だったのか、などの記憶は一切、残っていない。そこで早速、ネットで検索する。「(墓石は)石積み層塔による簡素なもの」「墓前には明治期に白旗神社が建てられた」などと書かれていた。
そうですか、とは思ったが、私が興味を惹かれたのは「柊(ひいらぎ)」の香の方なのだ。子供の頃、隣家の庭に柊が植えられていた。横に大きく広がり、高さは当時の私の背丈を上回る程度だった。隣家の小母さんに「棘があるから近づかないように」と言われていた。辞典類によれば、その柊が「金木犀に似た芳香を発する」のだという。「えっ、あの木から芳香が」と思わざるを得ない。
写真で見た頼朝の墓は、確かに簡素だった。その脇の柊から芳香が漂ってくるのだ。改めて掲句を見つめ、特に「墓の簡素や」の簡素な表現に感心した。その墓に配した金木犀に似た芳香とは何とも素晴らしい。私はこの句を「全投句中の第一位」と決めた。もちろん自分勝手に決めた個人的な順位である。
(恂 22.11.24.)
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